第38話   庄内竿の竹の採取              平成27年3月01日

庄内竿の竹の採取について書いて見たい。まず竹竿に向くかどうか竹質を良く見極める目を養わなくてはならない。竿にする竹は何でも良い訳ではない。竹は太からず、細からず竹と竹が擦れず、竹肌に傷のないもので枝が下から上まで左右同じ場所に均一についているものが良いとされる。また、竹は竹藪の中で込み入って生えているので、突き棒で根に傷つけぬ様に掘るのも長年の経験が必要だ。根は2040cm時にはそれ以上の事もある。また、途中から急に右や左に曲がっている事もある。その為掘っている時に根に傷つけてしまったり、根の部分を切ってしまったりする事もしばしばある。名人でさえもそんな事があったようで、人工的に根を作って継ぎ足した釣竿も見られる。
 庄内竿は、何本かの竹を又は数種類の竹を組み合わせてそれぞれの竹の長所を生かして作る他所の地区の釣竿と異なり、飽く迄も一本の竹を鍛え上げて黒鯛を釣る為の立派な竿に仕立て上げると云う事なので良い竹を見極める目を鍛えなければならない。
 過去の経験に従って竹の採取には、海岸部から23(812`)ほど離れた所にある竹藪が良いとされている。採取の時期は、昔は通年採っていたようだが、最近では竹の水揚げが止まる新暦10月の後半くらいから雪の降るあたりまでが良いとされている。更に冬の季節風が、強く当たる北西向きの竹藪の竹は穂先が枯れたり、湾曲したり、竹肌に傷がつくので敬遠する。また逆に全く風の吹かぬ場所では、腰が弱いと云う欠点が見られる。又竹の生えている土壌は、柔らかい所より多少堅い方が、根も比較的浅く芋根(三間以内の竿では、この芋根が喜ばれる)と呼ばれるものが多い。よって竹藪の比較的風の当たらぬ南側の竹を選ぶ事となる。その中で竹質の良く締まった34年古の竹肌に傷のないきれいなものを選ぶ事になる。最もそんな竹は滅多にないので、自然数多くの竹藪を探すしかない。
 立派な釣竿に出来る竹を探すのは、昔から大変な事で「野相日記(秋保親友)に竹を求めて鶴岡周辺から当時河北(最上川の北、酒田、遊佐周辺)と呼ばれていた地区を何度も徒歩で捜し歩いた事が書いてある。そんな竹藪には、通称竹切路がついていたと云う記述があり、数少ない名竿を求め探し回る釣り人たちが如何に多かったかが伺える逸話である。